景気や企業業績の動きはトレンドやサイクルをなす習性があり、それを反映して動く株価もトレンドやサイクルをなす習性があります。ですから、株価チャートを見ていくときには、まずトレンドを意識すること、そして、その背景にあるファンダメンタルズの動きを考えることが大事であり、それこそが株価チャートを実践的に使いこなす最大のコツ、というのが前回の結論でした。
では、株価トレンドが上昇トレンドなのか、下降トレンドなのか、横ばいトレンドなのか、それはどう判断したらいいのでしょうか。そのための切り札として移動平均線の使い方のコツを紹介していきましょう。
移動平均線に注目していれば、リーマンショックは避けられた
移動平均線については後ほど基本からお話するとして、まずは実例から見ていきましょう。
下の株価チャートを見てください。これは、2005年から2007年にかけての日経平均の週足チャートです。この時は小泉政権、そして第一次安倍政権と連なる時期で、改革期待と世界的な好景気の流れの中で順調な株価上昇が続いていました。
このチャートに描かれている補助線は52週移動平均線というものです。過去52週間(約1年間)の株価の平均値を連ねたものですが、日経平均はこの線に沿って順調な上昇トレンドを描いていることがわかります。そして、株価がこの線の近辺まで来ると反発しやすく、良い買いポイントになっていることもわかります。
ところが、Bの局面で株価は52週移動平均線をハッキリと割り込んでしまいました。それまでも少しだけ割り込むことはありましたが、これだけズドンという感じで割り込むのはこの上昇トレンドの中では初めてでした。
実は、この下落から日経平均は下降トレンドに転換して、その後1年近くに渡って株価が下がり、翌年の10月にはリーマンショックにより6000円台まで行きました。上の図のB地点から半値以下の水準まで下がってしまったわけです。
ここで注目したいのは、A地点とB地点はよく似たような動きにもかかわらずB地点の下落が決定的に重要なサインになったということです。結果的にもそういうことがいえるわけですが、テクニカル的には52週移動平均線を割り込んだかどうかで、その重要度の違いがその時点でも判断できました。
ここで大切なことは、B地点で、「いままで相場のサポート線として強力に機能していた52週移動平均線を、どうしてこんなにも割り込んでしまったのか」を真面目に考えることでした。
この当時、アメリカで低所得者向けの住宅ローンであるサブプライムローンが大量に発行されていたのですが、それがだいぶ焦げ付いてきて問題視され始めていました。当時は「サブプライムローン問題」と言われて騒がれ始めていました。
この問題については、当時、専門家の間でも「アメリカの住宅部門の中でもごく一部のセクターの問題だから、日本経済にはあまり影響がないだろう」という意見が大半でした。しかし、日経平均が52週移動平均線を大きく割り込む動きを見て、「これは、何か大変なことが起きているのかもしれない」と警戒を強めることができたのではないかと思います。
移動平均線は第一に「向き」、第二に「位置」で判断する
そこで、今度は移動平均線について基本からおさらいしてみたいと思います。
まず、移動平均というのは、一定の期間の終わり値の平均値です。そして、それを連ねた線が移動平均線です。
たとえば、5日移動平均というのはその日を含めて過去5日間の終値の平均値です。それを連ねたものが5日移動平均線です。式で表すと、
5日移動平均=過去5日間の終値の合計÷5
となります。
株価は上昇か横ばいか下落のいずれかのトレンドをたどっているケースが多いのですが、毎日の値動きを見ていると上がったり下がったりしているので、そのトレンドが分からなくなりがちです。
そこで、毎日の上下動に惑わされずに株価の大まかな方向性を探るために移動平均線を使うわけです。一定期間の平均値を連ねた移動平均線は短期的な動きに大きく左右されずにゆったりと大まかな方向性を描いていくからです。
移動平均線の見方としては、第一に線の向きが大切です。線の向きそのものがトレンドを示すと考えられるからです。
第二に、線に対する株価の位置が大切です。上昇トレンドの時には、線が上向きで株価がその上に乗る形で上昇を続けますが、株価が線を割り込んだらトレンド転換の兆しとなる可能性があります。
線が上向きの状態で株価が線を割り込んだ時には、線の向きの方を重視して上昇トレンドと判断しますが、
・線を大きく割り込む
・線を割り込んだままなかなか回復しない
という場合には、トレンド転換の可能性が高くなり、線が下向きに転じたら「トレンド転換した」と判断します。
株の買いポイントは、
・株価が線を突破して線が上向いたところ、
・線が上向きの時に、株価がその線近辺まで下落してきたところ
の2つです。売りポイントはこの逆になります。
また、移動平均線はさまざまな期間のものが描けますが、その利用の目安は以下の通りです。株価トレンドといっても、短期的なトレンドから長期的なトレンドまで様々ですが、短期的なトレンドを捉えて短期売買する場合には短期の移動平均線、長期的な投資をするなら長期の移動平均線を利用するのが基本です。
・5日移動平均線……数日程度の短期売買
・25日移動平均線……数日から数週間程度の短期売買
・13週移動平均線……数週間から数カ月程度の投資
・26週移動平均線……数カ月から1年程度の投資
・52週移動平均線……半年~2年程度の投資
・120カ月移動平均線……優良株の数年に一度の投資チャンスを探る
株式投資で儲けやすい時期と儲けづらい時期の判断
日経平均は過去の動きを見る限り平均3~4年程度のサイクルで上下動しています。これは、戦後の日本の景気サイクルが平均4年程度であることと関係していると思われます。
そして、この平均3~4年程度のサイクルを捉えるには、過去の事例を見る限り52週移動平均線または12カ月移動平均線が適しているようです。どちらも1年という期間の移動平均線でほぼ同じものです。
大きな流れを見るために、月足で20年間の日経平均の動きを下に掲げました。添えられている線は12カ月移動平均線です。
これを見ると12カ月移動平均線(≒52週移動平均線)が、日経平均のトレンドやサイクルをよく表していることがわかります。
大雑把にいえば、
・12カ月移動平均線(≒52週移動平均線)が上向いている時……儲かりやすい
・12カ月移動平均線(≒52週移動平均線)が下向いている時……儲かりづらい
ということがいえると思います。
ですから、「12カ月移動平均線ないし52週移動平均線が上向きになってきたところが、絶好の株の投資ポイントになる」ということが、経験上言えます。
しかし、12カ月移動平均線が上向いたポイントと言っても、上のチャートのD地点のように上昇トレンドのごく初期段階のこともあれば、C地点のようにほとんど上昇トレンドの終了近くになってしまうケースもあります。
できればD地点のように上昇トレンドの初期段階を捉えたいものですが、そのためにはどういうことに注目したらいいのでしょうか。
上昇トレンドの初期段階を捉えるための移動平均線を見るコツ
先ほどのC地点とD地点について少し詳しく見るために、下に両地点の週足チャートを掲げました。
週足チャートですから、12カ月移動平均線ではなくて、それにほぼ相当する52週移動平均線を表示し、さらに13週移動平均線と26週移動平均線も表示しています。2つのチャートにどんな違いがあるのか、見比べてください。
見比べていかがでしょうか。違いは一目瞭然だと思いますが、その違いは、
・C地点のチャート・・・移動平均線と株価がバラけている
・B地点のチャート・・・移動平均線と株価が収れんしている
ということです。
株価の横ばいの調整が続くと、株価と移動平均線が収れんするという形になります。とくに、Dのように、13週、26週、52週の各移動平均線と株価が全て収れんする形になって、そこから上昇し始めるのは最高の買いサインになることが多いです。このパターンでは、全ての移動平均線が一斉に上向き、株価も全ての移動平均線の上に位置する形になります。つまり、線の向きや株価の位置など、「全ての買いサインが一斉点灯する形」になるのです。
なお、C地点のチャートでは、C地点より少し前のC’地点で、13週移動平均線と26週移動平均線がほぼ同時に上向き、株価もこの両線を上抜いているので、なかなか良い買いサインのパターンになっているといえます。52週移動平均線はまだ下向いているので、この買いサインは“だまし”になる可能性もあり、その点がやや不安ですが、その後上昇が続き52週移動平均線も上向く形になりました。
しかし、上昇トレンドが開始してからC’地点、C地点の買いサインまではタイムラグが結構ありましたし、上昇もある程度進んでしまっていました。それと比較すると、全ての買いサインが一斉点灯したD地点のパターンはかなり優れた買いパターンといえるでしょう。
さて、最後に14年7月初旬現在の日経平均状況ですが、52週移動平均線はまだ上向いていますので、そうした点ではアベノミクス相場はまだ終わっていないと言えるでしょう。
しかし、26週移動平均線が下向いてきていて、これが上昇トレンド終了の前兆にもなりうるので、この点は気になるところです。26週移動平均線が一段と下向き、52週移動平均線まで下向いてくると、株価トレンドが転換する可能性が高まるので、今後はそうした点に注意しながら相場を観察していくといいのではないかと思います。
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