「つみたてNISA(積立型の少額投資非課税制度)」と同様に、毎月一定額を積み立てていく制度に「iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)」があります。2つの制度については、「どちらのほうがいいか」「どちらを優先すべきか」といった議論がよく起きますが、考えるべきポイントがずれている場合が少なくないようです。
そこで今回は、「つみたてNISA」と「iDeCo」のどちらを優先すべきかについて、どちらにするか迷ってしまう2つの要因を考慮しながら、改めてお話ししたいと思います。
「つみたてNISA」も「iDeCo」も運用益は全額非課税!
さらに「iDeCo」には掛金全額所得控除のメリットも
最初に、「つみたてNISA」と「iDeCo」の仕組みやメリットについて確認しておきましょう。
「つみたてNISA」は年間40万円まで、積立投資による運用益がすべて非課税になる制度です。一方、「iDeCo」の掛金は、職業や企業の年金制度によって年間14万4000~81万6000円と差がありますが、こちらも運用期間中の利益が全額非課税となります。
さらに、「iDeCo」の場合は拠出した掛金の全額が所得控除の対象となり、所得税や住民税が軽減されるというのが大きなメリットです。仮に、所得税が10%、住民税が10%の人が年間12万円の掛金を拠出すれば、2万4000円(12万円×20%)の節税になる計算です。
投資方法は、「つみたてNISA」は積立形式のみです(積立頻度は「毎月」だけでなく、金融機関によっては「毎日」や「毎週」、「隔月」などがあります)。「iDeCo」のほうは今年から掛金拠出の年単位化が始まり、これまでの「毎月積立」に加えて、「毎月積立+ボーナス時の増額」や「ボーナス時のみ」の支払い、「年払い」なども可能になりました。
運用期間は、「つみたてNISA」が最長20年間、「iDeCo」は最長40年間(20歳~60歳未満)です。「つみたてNISA」は運用期間中いつでも資金の引き出しができますが、「iDeCo」の場合は60歳になるまで引き出すことは一切できません。また、「iDeCo」では加入期間が10年に満たない場合、最長65歳まで引き出せる時期が繰り下がります。
運用の対象となるのはどちらも指定された一定の商品に限られます。「つみたてNISA」は金融庁による一定の条件を満たした投資信託とETFのみが対象ですが、「iDeCo」では各金融機関が厳選した投資信託のほか、定期預金と年金保険という元本確保型の商品も選ぶことができます。
2つの制度で迷う大きなポイントは2つ、
「所得控除の有無」と「現金化のしやすさ」
「つみたてNISA」と「iDeCo」の制度概要を押さえたところで、本題である「どちらがいいのか」「どちらを優先すべきか」を考えていきましょう。迷うポイントは、大きく次の2つだと思います。
(1)掛金に対して所得控除が使えるかどうか
(2)必要なときにいつでも引き出せるかどうか
(1)の「掛金に対して所得控除が使えるかどうか」を重視するなら、もちろん選択するのは「iDeCo」になります。掛金の全額所得控除は、「つみたてNISA」にはない「iDeCo」ならではの大きなメリットだからです。
先ほど、「つみたてNISA」と「iDeCo」の共通のメリットとして「運用益の全額非課税」を挙げました。しかし、「非課税であること」=「非課税のメリットを受けられる」ではありません。「つみたてNISA」を利用することで「運用益が非課税になる」という権利は得られますが、その権利を行使できるのはあくまで利益が出たときだけです。権利はあっても必ずしも権利を使えるわけではないのです。
そう考えると、入口の部分で確実に「所得控除」で節税ができる「iDeCo」は非常に魅力的と言えるかもしれません。他のメディアなどで『「つみたてNISA」VS「iDeCo」』を取り挙げて「iDeCo」に軍配を上げる場合も、掛金の全額所得控除が理由ということが多いようです。
ただ、実は所得控除の有無だけでなく、(2)の「必要なときにいつでも引き出せるかどうか」も非常に重要なポイントです。「iDeCo」は老後資金の確保を制度の目的にしているため、すでに述べたように60歳になるまで資金を引き出すことができません。言い換えると、「iDeCo」では老後資金以外のライフイベントには対応できないのです。
一方、繰り返しになりますが、「つみたてNISA」ならいつでも好きなときに、積み立てた資産の一部または全部を引き出せます。(2)に目を向ければ「つみたてNISA」のほうが使い勝手がよいということになります。
不確定要素が多い20~30代の若年層は、
まず「つみたてNISA」から検討するのがおすすめ
では、「つみたてNISA」と「iDeCo」で迷っている場合は、(1)所得控除が使えるかどうか、と(2)必要なときにいつでも引き出せるかどうか、のどちらを重視して判断すればよいのでしょうか。私は、若年層――具体的には20~30代であれば、「いつでも資金が引き出せる」ことをより重視して、まず「つみたてNISA」から検討するのがよいと考えます。
その理由は、20~30代だと老後を迎えるまでの期間が長く、その間に結婚や住宅購入といったさまざまなライフイベントがあり、その都度資金が必要になるからです。また、若年層だと、その後の人生で景気変動や転職などによる収入のアップダウンが起こる可能性も高いと言えます。要するに、今後の人生において不確定要素が多いということですね。
不確定要素が多い状況に備えるには、投資そのものをしないという選択肢もあるかもしれません。ただ、それはあまりにも近視眼的な考え方で、やはり今後の「世界の成長」に期待して投資していくことも大切です。
投資はする、しかし不確定要素にも備えたいとなると、後は「いざ」というときのために、資産の「現金化のしやすさ」に重きを置く必要があります。ですから、40代前半くらいであっても、子どもがまだ小さくてこれから教育費がかかる、あるいはその頃に住宅ローンの返済も重なる、仕事もどうなるかわからないという人は、20~30代の人と同じように「つみたてNISA」から検討したほうがよいでしょう。積み立てた資金がそこにあるのに、必要なときに引き出せないという「iDeCo」特有のリスクは避けたいものです。
もちろん、収入や資産状況、ライフプランは人によって大きく異なります。若年層でもそれなりに貯蓄があり、予想ができるライフイベントへの資金も十分用意できている、ライフプランもほぼ固まっているという人なら、「iDeCo」を優先させて構いません。
また、ある程度、不確定要素がクリアになってきた40~50歳過ぎまでの給与所得者には、所得控除のある「iDeCo」から検討することをおすすめします。
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⇒「iDeCo」を始めるなら、おすすめ金融機関はココ! 口座管理料が無料になり、投資信託のラインナップが充実している「SBI証券」と「楽天証券」を比較!
「iDeCo」は60歳で掛金の拠出がストップ!
50代半ば以降には「つみたてNISA」がおすすめ
さて、50代半ばを過ぎた人(給与所得者)の場合は、「つみたてNISA」と「iDeCo」のどちらを優先して検討すればよいでしょうか。私は、まず「つみたてNISA」をおすすめしたいと思いますが、これまでとはその理由が異なります。
「iDeCo」は、掛金を60歳までしか拠出できません。そのため、仮に55歳で「iDeCo」を始めたとしたら、5年後の60歳からは「つみたてNISA」に移行する必要があります。もちろん、5年間でも所得控除を受けられるのはメリットです。しかし、5年経ったらまた別の制度に移行するのは、手続きなどを考えても面倒なものではないでしょうか。
また、55歳から「iDeCo」を始めた場合、現金を引き出せるのは60歳ではなく、63歳以降になるというのもデメリットと言えるかもしれません。
その点、「つみたてNISA」であれば、55歳から始めれば最長20年間、75歳まで積立による老後資金を作っていくことが可能で、75歳以降の後期高齢者期間に向けての資金準備に役立てられます。
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⇒つみたてNISAに向いている人、向いていない人は?「iDeCo」より「つみたてNISA」を活用すべき人と、「つみたてNISA」を絶対に使ってはいけない人とは?
「つみたてNISA」と「iDeCo」の併用も可能、
ただし、若いうちから無理に両方やる必要なし!
ここまで、「つみたてNISA」と「iDeCo」のどちらを優先すべきか、という話をしてきました。ただ、そもそも「つみたてNISA」と「iDeCo」は別にどちらか一つを選ばなければいけないものでも、対立するものでもありません。
資金に余裕があれば、両方をミックスして使うことももちろん可能です。また、職種や企業の年金制度によっては、いくら「もっとたくさん積み立てたい」と思っても、「iDeCo」あるいは「企業型確定拠出年金(企業型DC)」のマッチング拠出では、拠出額がかなり限られてしまうことがあります。そういう場合は、「つみたてNISA」も組み合わせて補うというのが賢い使い方と言えるでしょう。
「つみたてNISA」と「iDeCo」を併用する場合は、その他の資産も加えた全体でどんなポートフォリオを組むのか、どのくらいのリスクを取っていくのかが重要になります。具体的には、たとえば「つみたてNISA」では株式100%の投資信託かバランス型の投資信託しか選べないので、「つみたてNISA」は株式100%の投資信託、「iDeCo」では債券100%の投資信託を選ぶ、というような考え方です。
このように、「つみたてNISA」と「iDeCo」を併用すること自体は別に問題はありません。しかし私は、若年層のうちから少ない資金を無理に両方に振り分けなくてもいいと考えています。20代で毎月2万円出すのが限度という人が、わざわざ「iDeCo」と「つみたてNISA」で1万円ずつ積み立てる必要はないでしょう。それよりは、「不確定要素の多さ」を考えて、まずは「つみたてNISA」から、そして後から「iDeCo」の利用も追加していく、という方法で十分だと思います。
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⇒「つみたてNISA」と「iDeCo」、積み立て投資がお得にできる2つの制度は、どう使い分けるべきか? それぞれの制度の特徴、違い、向いている人を検証!
最近は、20~30歳の若年層でも老後ばかりに目が向いている人が少なくありません。2017年の「iDeCo」の制度改正・対象者拡大で、それがよりいっそう強く意識付けられているように感じます。
しかし、資金の準備では、まず近いライフイベントを優先させるべきであって、遠い将来である老後資金のことを最優先にするのは、本末転倒と言わざるを得ません。単に年齢で決めるというよりは、ご自身の「不確定要素の多さ」の度合いを考えた上で、積み立てている途中でも資金を取り崩す必要性がありそうと感じるのならば、まずは「つみたてNISA」から始めてみてはいかがでしょうか。
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⇒つみたてNISA(積立NISA)を始めるなら、おすすめの証券会社はココだ! 手数料や投資信託の取扱数などで比較した「つみたてNISA」のおすすめ証券会社とは?
⇒iDeCo(個人型確定拠出型年金)の金融機関を比較! 口座管理手数料や投資信託の取扱数などで比較した、iDeCo口座を開設できる、証券会社・銀行を紹介!
(構成:肥後紀子)
ファイナンシャルリサーチ代表。AFP、1級ファイナンシャルプランニング技能士。クレジット会社勤務を3年間経て1989年4月に独立系FP会社に入社。1996年1月に独立し、現職。あらゆるマネー商品に精通し、わかりやすい解説に定評がある。主な著書に『あなたの毎月分配型投資信託がいよいよ危ない』『ジュニアNISA入門』(ダイヤモンド社)など多数。
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※手数料などの情報は定期的に見直しを行っていますが、更新の関係で最新の情報と異なる場合があります。最新情報は各証券会社の公式サイトをご確認ください。売買手数料は、1回の注文が複数の約定に分かれた場合、同一日であれば約定代金を合算し、1回の注文として計算します。投資信託の取扱数は、各証券会社の投資信託の検索機能をもとに計測しており、実際の購入可能本数と異なる場合が場合があります。※1 年会費無料のクレジットカードの場合。※2 1約定ごとプランで約定金額240万円までの売買手数料。 |