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5月12日〜13日に発表された米国の2つの物価指数が
そろって予想を上回り、市場ではインフレ懸念が高まる
5月12日(水)に発表された米国の4月の消費者物価指数は、前年同月比+4.2%と予想を上回りました。さらに、5月13日(木)に発表された米国の4月の卸売物価指数も、前年同月比+6.2%と予想を上回っています。
このため現在、市場参加者はインフレに対してピリピリしています。そこで今回は、インフレ懸念とその影響について解説します。
インフレには「54年サイクル」が存在し、
次回のインフレピークは2033年に起こる!?
インフレは「54年サイクル」が存在することが知られています。実際に歴史を紐解けば、商品市況は過去に下の表のような「54年サイクル」でインフレとなり、大天井を付けてきました。
■商品市況は「54年サイクル」で大天井を付ける! | ||||||
大天井を付けた年 | 大天井に至るまでの主な出来事 | |||||
1817年 | 1803~1815年にかけ、ナポレオン戦争で約430万人が死亡。 | |||||
1871年 | 1861~1865年にかけ、南北戦争で約65万人の兵士が死亡。さらに1869年に大陸横断鉄道が開通、1870年に普仏戦争が勃発。 | |||||
1925年 | 1914~1918年にかけ、第1次世界大戦で約850万人の兵士と約1300万人の民間人が死亡。さらに、1920~1923年にかけてドイツでハイパー・インフレーションが発生。 | |||||
1979年 | 1973年に起きた第4次中東戦争で、石油輸出国機構(OPEC)が石油価格を引き上げ。さらに1978年にイラン革命が起こり、1979年には在テヘランアメリカ大使館人質事件が勃発。 | |||||
2033年? | ? |
この「54年サイクル」で考えると、次のインフレのピークは2033年ということになります。
率直に言えば、2033年まではあと12年もありますし、また、上の表に載せた過去の大きなインフレで本当に物価が急騰したのはピーク直前の数年間だけでした。そのため、過去の経験則に照らすと、今から狂乱インフレの到来を予想するのは間違っていると思います。
それを前提としつつ長期の「物価のうねり」を考えると、今は長期下落局面が過ぎ、じわじわと上昇する局面に入っていると考えることができます。
米国や日本の物価上昇に対する期待度は低く、
インフレ期待が低くアンカーされている状態
日本は1990年代以降、ずっとデフレ圧力に苦しんできましたが、そういう社会では「どうせ給料は上らないだろう」という先入観が形成されます。また逆に、しばらくインフレが続くと人々は「今後も物価上昇が続くだろう」と予想するようなります。このような給料や物価に対する先入観を「インフレ期待」と言います。
インフレ期待は1年やそこらで激変するものではなく、長年かけて、だんだんと変化が出るものだと言われています。
現在、米国や日本の市民のインフレ期待は依然として低いです。経済学者はそのような状態を「インフレ期待は低くアンカー(固定)されている」と表現します。
新型コロナを要因とした「ベース・エフェクト」により、
直近のインフレ率は1.8%前後の"下駄を履いている”状態
昨年の米国の状態を見ると、新型コロナウイルス感染症で人々が外出できなくなったことで、一時的に経済がストップしてしまい、商品やサービスに対する需要が崩壊して価格下落を引き起こしました。経済統計を取り扱う場合、このような特殊要因には注意を払う必要があります。
つまり、2020年に新型コロナウイルス感染症で商品価格が下落したことにより、2021年の前年比較の数字は普段以上に上がりやすくなっています。具体的に言えば、直近のインフレ率は、1.8%前後の「下駄を履いている」と考えられます。このように、特殊要因により前期の数字が変化したことで前期比の数字が影響される現象を「ベース・エフェクト」と言います。
今はベース・エフェクトが働いているので、「消費者物価指数が+4.2%も上がった!」と言って取り乱す必要はないのです。
世界的な半導体不足や米国の住宅需要の急増など、
経済の「ボトルネック」も一時的なインフレ率上昇の要因に!
もうひとつ、最近のインフレを巡ってしばしば指摘されているのが、経済の「ボトルネック」です。
例えば、今回の消費者物価指数の中身を見ると、中古車価格の高騰が激しかったです。しかし、これは消費者が突然、新車より中古車を選好するような嗜好の変化が起きたと考えるべきではありません。実際は、自動車販売ディーラーに行っても新車の在庫がカラッポなので仕方なく中古車を買っていることから、中古車価格が上昇したのです。
なぜ新車の在庫が払底しているかと言えば、自動車に搭載される半導体が不足しているからです。半導体の生産が追い付いていないことがボトルネックとなり、中古車価格の上昇が生じているのです。
同様のことは材木にも言えます。このところ米国の木材価格が上昇していますが、これは赤松などの原木が不足しているからではありません。実際、原木の供給は、つい2年前まで過剰でした。今材木が不足しているのは、住宅需要が増えたことで製材所、つまり伐採した木をツー・バイ・フォーなど規格通りの建材にカットする設備が不足しているためです。これも予期せぬ経済のボトルネックの例でしょう。
このような経済のボトルネックが原因で生じた中古車や材木の価格上昇が、「毎年、お給料のベースアップがあって当然!」のような一般市民のインフレ期待として定着するまで影響力を維持できるかと聞かれれば、首をかしげざるを得ません。
「ベース・エフェクト」「ボトルネック」などの一過性の要因と
「少子高齢化」などの長期のトレンドを分けて考えることが必要
ここまでに説明した「ベース・エフェクト」や「ボトルネック」は、いずれも一過性の要因です。それに対して、少子高齢化など長期に渡って国の需要のトレンドに影を落とす要因は、なかなか克服できません。
こうした状況を踏まえて、連邦準備制度理事会(FRB)は金融政策決定会合の枠組みで定められた基本方針を貫き、足下のインフレを敢えて無視して、現在の緩和的な政策を堅持することを明確に打ち出しています。
インフレ率が上昇しようが落ち着こうがどちらでも問題ないように
今はバランスの取れたポートフォリオを構築すべき
このところの株式市場では、長期金利の上昇に対して脆いハイグロース株が売られ、インフレ的な環境下で市場平均をアウトパフォームする(上回る)ことが多い素材株や市況株が人気となっています。ただ、素材株や市況株を買う投資家の間には「どうせ、今後も一本調子でインフレが昂進するだろう」という慢心が芽生えているように思います。
しかし、上に述べた「ベース・エフェクト」と「ボトルネック」という短期的な要因が一巡した後、インフレ圧力が維持されるかどうかは大いに疑問です。
バリュエーション的には、素材株と市況株はすでに安くありません。むしろ、売り込まれたハイグロース株のほうに妙味があります。
そのため今は、インフレが昂進しようと、逆に鎮静化しようとどちらでも良いように、バランスの取れたポートフォリオを構築すべきだと思います。
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