「つみたてNISA(積立型の少額投資非課税制度)」は、20歳以上なら誰でも利用できます。また、運用期間は最長20年ですが、いつでも引き出すことが可能で、利用目的は老後資金に限りません。このように誰にとっても使いやすい「つみたてNISA」は、年齢や立場によって果たす役割や意味合いが変わってきます。
今回は、年金制度面で会社員とは大きく異なる立場にある自営業者と、定期収入のない専業主婦・主夫が、「つみたてNISA」をどう活用すればいいのかについて考えてみましょう。
「国民年金」のみの自営業者は老後の年金が非常に手薄
「国民年金基金」と「つみたてNISA」の3階建てで不安を解消!
まずは自営業者について見ましょう(専業主婦については後半で解説します)。冒頭で、「つみたてNISA」は老後資金作りだけが目的ではないと言いましたが、自営業者(国民年金の第1号被保険者)にとっては、老後への備えとして活用すべき制度だと考えます。
自営業者の公的年金制度は、基本的には「国民年金」のみのいわゆる“1階建て”です。会社員(第2号被保険者)が「国民年金」+「厚生年金」の“2階建て”であるのと比べると、非常に手薄な状況になっています。
今年度から新たに年金をもらう人の受給額で、具体的な金額を比較してみましょう。会社員の場合、夫婦2人の標準的な年金受給額は月額22万1277円ですが、これに対して自営業者(老齢基礎年金のみ受給)は1人満額で6万4941円、夫婦2人として倍額でも12万9882円にしかなりません。つまり、国民年金だけでは会社員世帯と比較すると年金に毎月約9万円も差がついてしまうのです。
そこで、「iDeCo(個人型確定拠出年金)」や「国民年金基金」、「小規模企業共済」、「つみたてNISA」といった制度を上手に使って、公的年金(国民年金)だけでは不足する分を自分で補完していく必要があります。
その中で、私が“2階”部分としておすすめしたいのは「国民年金基金」です。理由は、今挙げた中で、「国民年金基金」だけが生涯にわたって年金を受け取れるからです。
「iDeCo」も制度上は「終身」での受け取りが可能ですが、実際には対応している金融機関はほとんどありません。「人生100年時代」と言われる中で、潤沢なキャッシュフローを生涯にわたって確実に得ることは非常に重要です。公的年金(国民年金)に「国民年金基金」を加えて“2階建て”として、そこにさらに「つみたてNISA」を加えて“3階建て”を目指すのがよいと考えます。
ちなみに、「キャッシュフローを生み出す」というと、「不動産投資」「家賃収入」と発想する方がけっこういますが、不動産投資は決して“確実”ではなくリスクも低くはありません。たとえば、入居者確保のために家賃を引き下げれば、キャッシュフローは想定以下になる場合があります。また、不動産所得には税制上のメリットもありません。こうしたことから、高齢者には不動産投資はお勧めしません。
自営業者は、まず「国民年金基金」でしっかり老後資金のベースを作るべきだと、私は考えています。可能であれば上限額の月6万8000円を拠出したいところです。かなり大きな金額のようですが、それでようやく会社員が加入している厚生年金と同等になります。たとえば厚生年金では、標準報酬月額30万円なら保険料は月5万4900円(企業が折半で払っているので会社員本人が支払う保険料は2万7450円)です。
ただし、考えてほしいのが「公的年金や国民年金基金はインフレリスクに弱い」という点です。物価が上がっていけば年金は目減りしてしまいます。そこで、“3階”部分の「つみたてNISA」で、インフレリスクに備えるのです。
【※関連記事はこちら!】
⇒「つみたてNISA」は50代半ば以降の人が老後資金を作る最適な制度!「iDeCo」との比較や商品の選び方など、50~70代の「つみたてNISA」活用術を解説!
ただ、国民年金基金で上限の月6万8000円、さらに「つみたてNISA」で上限の月3万3000円を積み立てるとすると、月々に出ていくお金は10万円を超えます。自営業者の場合、「つみたてNISA」については、上限の3万3000円にこだわらず、2万円でも1万円でも、無理のない金額を設定するといいでしょう。
仕事のリスクがある自営業者は資産運用のリスクは控えめに
ただし「つみたてNISA」なら株式100%の投信でもOK
次に、自営業者は「つみたてNISA」でどのような商品に投資すべきか考えてみます。
自営業者は、仕事をする上で会社員よりもリスクを取っています。成功すれば大きな収入を得られる代わりに、失敗して厳しい立場に置かれることもあります。それを考えると、資産運用ではあまりリスクを取らないほうが望ましいでしょう。
しかし、「つみたてNISA」の対象商品は、株式に100%投資する投資信託・ETFか、バランス型の投資信託のみです。では、自営業者は株式100%よりもリスクが相対的に低いバランス型投資信託を選ぶべきかといえば、そうとは限りません。なぜなら、「つみたてNISA」の積立金額は最大でも月額3万3000円と少額で、また運用期間も最長20年と長く、時間分散をしっかり効かせた運用ができるからです。
先ほど述べたように、「国民年金」と「国民年金基金」をベースに、「つみたてNISA」をプラスαという位置づけにすることで、株式100%の投資信託であっても、資産運用リスクの取り過ぎは防げるのではないでしょうか。
ただし、「つみたてNISA」以外にも株式などのリスク資産をかなり持っている場合は、リスクの取り過ぎにならないよう気を付ける必要があります。また、リスクを抑えたい人や、商品選択で自信のない人は、もちろんバランス型投資信託で積立投資を行っても構いません。
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⇒「つみたてNISA」は、バランス型投資信託を1本だけ選べばOK! 国内と海外の4つの資産(株式+債券)に投資するバランス型投信の選び方と注意点を解説!
「国民年金基金」「iDeCo」「つみたてNISA」「小規模企業共済」
自営業者はどの制度を優先して利用すべきか
最初に述べたように、自営業者の公的年金(国民年金)以外の老後資金確保の手段には、「国民年金基金」、「iDeCo」、「つみたてNISA」、さらに「小規模企業共済」と、さまざまな制度があります。このうち「つみたてNISA」以外はいずれも掛金が全額所得控除の対象になり、受け取りの際にも税制面でのメリットがありますが、ペナルティなしにいつでも好きなときに現金化できるのは、「つみたてNISA」だけです。収入が不安定な自営業者にとって、“お金が引き出せない”というのは大きなリスクです。
したがって、私のおすすめは、まず「国民年金基金」+「つみたてNISA」の組み合わせで、お金に余裕があるなら+「iDeCo」、さらに余裕があれば+「小規模企業共済」という優先順位です。何を重視するかで選択肢は変わってきますが、それぞれの制度のメリット・デメリットをしっかり理解した上で、上手に活用してほしいと思います。
*1:上限額は加入資格の区分(職業など)により異なる。 *2:iDeCoと国民年金基金の両方に加入の場合は両者の合算で月6.8万円。 *3:株式に投資する投信・ETFおよびバランス型の投信。投信の条件は信託報酬が低い、販売手数料が無料、毎月分配型ではない、など。 *4:非課税枠は退職金や公的年金の受取額によって異なる(節税メリットが得られない場合もある)。 *5:積立期間が短いと受取可能時期が遅くなる。最も遅くて65歳から。 *6:2口目以降は、60歳からの受取も可能(5年、10年、15年で受取)。 *7:ただし老齢給付の場合、20年未満で解約すると元本割れとなる可能性が高い。 |
夫婦で「iDeCo」と「つみたてNISA」を
使い分ければ両方のメリットが生かせる!
続いて、専業主婦・主夫にとっての「つみたてNISA」の活用法を考えていきましょう。まずポイントとなるのは、専業主婦・主夫は自身の定期収入がない、という点です。そこで「つみたてNISA」が持つ意味は、個人で考えるのか、世帯つまり家計全体で考えるのかで変わってきます。
個人で考えると、収入がなければあえて「つみたてNISA」で投資をする必要はないかもしれません。しかし、家計全体で考えた場合には、専業主婦・主夫であっても「つみたてNISA」を利用する意味はあると思います。夫と妻がどちらも「つみたてNISA」を利用して積み立て投資をすれば、利益が出た場合の非課税枠が2倍に増えるわけですから、節税メリットを最大限に享受できます。
ここで多くの方が悩むのは、「つみたてNISA」と「iDeCo」ではどちらを優先したらいいか、ということではないでしょうか。もともと所得税・住民税を払っていない専業主婦・主夫の場合、「iDeCo」で掛金分が所得控除の対象となって所得税・住民税が軽減されるという、節税メリットがありません。つまり、“入り口”のところでは「つみたてNISA」と「iDeCo」には差がつきません。また、運用益が非課税という点でも同等です。
ただし、「iDeCo」であれば“出口”、すなわち受け取りの際にも、所得控除の対象になるという税制メリットを受けられます。したがって、使用目的を「老後資金」に限定するなら、「つみたてNISA」よりも「iDeCo」を優先し、夫婦ともに「iDeCo」という選択肢もあるでしょう。
一方で、夫婦のうち一人は老後資金を重視して「iDeCo」を選び、もう一人は「いつでも現金化できる」というメリットに注目して「つみたてNISA」を選ぶという考え方もあります。特に、この先何があるかわからない若い世代であるほど、資金の流動性は意識しておきましょう。資金のすべてを「iDeCo」に入れると、60歳まで引き出せないため、いざというときに現金がなくて困ってしまうことになりかねません。
そこで夫婦二人で両方を使い分ければ、「iDeCo」のデメリットを打ち消すことができます。なお、夫婦で「iDeCo」と「つみたてNISA」を使い分ける場合には、所得控除のメリットを考えて、所得の多いほうが「iDeCo」を選ぶようにしましょう。
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⇒「つみたてNISA」VS「iDeCo」の最終結論とは?iDeCoの「掛金が全額所得控除」の利点に捉われず、将来の「不確定要素の多さ」にも注意して決めよう!
専業主婦・主夫が「つみたてNISA」で買う商品は
“家計全体の資産”で配分を考えるのが大切
専業主婦・主夫が「つみたてNISA」で積立投資する場合に選ぶべき商品は、株式100%の投資信託でしょうか、あるいはバランス型の投資信託でしょうか。これについても、家計全体で考えるのが大切です。
もし、家計全体の資産のうち、株式などのリスク資産の割合がすでに高ければ、「つみたてNISA」では株式比率を抑えたバランス型投資信託を選んだほうがいいでしょう。
また、夫が「iDeCo」で妻が「つみたてNISA」といった場合に、両方が株式100%では、リスク資産の比率が高くなり過ぎてしまいます。「つみたてNISA」で株100%の投資信託を選んだら、「iDeCo」では株式型の投資信託だけでなく債券型の投資信託にも投資するなどして、資産配分を調整する必要があります。
繰り返しになりますが、専業主婦・主夫が「つみたてNISA」を活用するときに大切なのは、“家計全体として考える”ことです。細かく考えすぎる必要はありませんが、特に、資産全体で見てリスク資産の割合が多すぎないかという点には、注意しましょう。
また、老後資金と、いざというときに引き出せる資金のバランスをどう考えるかや、家計の余裕がどのくらいあるかで、「つみたてNISA」をどう使うか、あるいは使うべきではないかが変わってきます(これについては、次回で詳しく解説したいと思います)。まずは、夫婦で家計や資産の状況やこの先に必要なお金を確認し、話し合ってみるといいでしょう。
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⇒つみたてNISA(積立NISA)を始めるなら、おすすめの証券会社はココだ!手数料や投資信託の取扱数などで比較した「つみたてNISA」のおすすめ証券会社とは?
(構成:肥後紀子)
ファイナンシャルリサーチ代表。AFP、1級ファイナンシャルプランニング技能士。クレジット会社勤務を3年間経て1989年4月に独立系FP会社に入社。1996年1月に独立し、現職。あらゆるマネー商品に精通し、わかりやすい解説に定評がある。主な著書に『あなたの毎月分配型投資信託がいよいよ危ない』『ジュニアNISA入門』(ダイヤモンド社)など多数。
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※手数料などの情報は定期的に見直しを行っていますが、更新の関係で最新の情報と異なる場合があります。最新情報は各証券会社の公式サイトをご確認ください。売買手数料は、1回の注文が複数の約定に分かれた場合、同一日であれば約定代金を合算し、1回の注文として計算します。投資信託の取扱数は、各証券会社の投資信託の検索機能をもとに計測しており、実際の購入可能本数と異なる場合が場合があります。※1 年会費無料のクレジットカードの場合。※2 1約定ごとプランで約定金額240万円までの売買手数料。 |