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「脱炭素」に向けた取り組みの一環として、鉄鋼業界で鉄スクラップの調達を増やす動きが広がっていると、日本経済新聞が6月5日に報じました。
「脱炭素」という言葉は、菅政権になってから耳にする機会が非常に多くなっていますが、製鉄業は温暖化ガスの大きな排出源になっていると従来から指摘されており、菅政権が号令を発するだいぶ前からこの問題の解決に向けて動き出していました。例えば、日本鉄鋼連盟は2018年11月、パリ協定で中期目標として設定された2030年を見据え、最終的なCO2排出量がゼロの鉄鋼「ゼロカーボン・スチール」を目指した「長期温暖化対策ビジョン-ゼロカーボン・スチールへの挑戦-」を策定するなど、着々と取り組みが進められています。
「鉄スクラップ」を原料とする「電炉」での製鉄は、
従来の「高炉」に比べてCO2排出量を約1/4に抑えることが可能!
なぜ鉄スクラップが「脱炭素」につながるのかというと、鉄鋼業界における「高炉」から「電炉」へのシフトがあります。
高炉(溶鉱炉)とは製鉄所のメイン設備で、原料の鉄鉱石を溶かして銑鉄(せんてつ)を取り出すための炉です。その際にコークス(石炭を蒸し焼きにしたもの)を燃焼させて熱源などとして活用しますが、このとき大量のCO2が発生します。
一方、電炉は、鉄鉱石ではなく鉄スクラップを原料とし、電気によって溶解・精錬することで鉄鋼を製造します。電炉はコークスを燃焼させないため、直接的にはCO2を排出しません。コークスの代わりのエネルギー源として大量の電力を消費しますが、それでも同じ生産量なら高炉と比較してCO2排出量を1/4程度に抑えられます。消費電力を再生可能エネルギーで賄えれば、さらに環境負荷を減らすことができます。
そうした環境意識の高まりを背景に鉄スクラップの需要が世界的に高まっており、中国では今年から「再生鋼鉄原料」という国家規格に適合した鉄スクラップの輸入を解禁しました。日本国内の要因だけでなく、こうした海外の動きもあって、鉄スクラップの需給は一段と締まり、国内流通価格は約13年ぶりの高値をつけました。
「日本製鉄」の「ゼロ・カーボン・スチールへの挑戦」など、
鉄鋼業界における「脱炭素」の流れは今後ますます加速!
鉄鋼業界における「脱炭素」の動きは、すでに各企業へも広がりを見せています。
例えば、日本製鉄(5401)は、2021年3月に発表した「日本製鉄グループ中長期経営計画」の中で、さまざまな施策の1つとして「ゼロカーボン・スチールへの挑戦」を掲げています。具体的な目標としては、2030年において、現行の高炉・転炉プロセスでのCOURSE50(高炉での原料炭による鉄鉱石の還元を一部水素に置き換える技術など)の実機化、既存プロセスの低CO2化、効率的な生産体制の構築などによって、対2013年比でマイナス30%のCO2排出削減を実現するなどを挙げています。
また、JFEホールディングス(5411)は、電炉鋼ニーズの高まりや世界的な鉄スクラップの発生増大をビジネスチャンスと捉えており、自社グループにおける電炉鋼製造を推進するほか、最新鋭の省エネルギー電炉設備を一貫施工するエンジニアリング技術を活用して事業機会を拡大。また、鉄スクラップの利用技術の開発も進め、鉄鋼業界全体で鉄スクラップの利用拡大を目指しています。
鉄鋼業界におけるCO2削減の流れは、今後ますます加速していくことは間違いないでしょう。
今週は「電炉」と「鉄スクラップ」の関連銘柄にフォーカス!
派生テーマとして「非金属スクラップ」関連の銘柄も紹介
そこで今回は、鉄鋼業界における「脱炭素」の流れから、「電炉」と「鉄スクラップ」に関連する銘柄に注目しました。
具体的な銘柄選定では、電炉メーカー(電炉で鉄鋼を製造する鉄鋼メーカー)や鉄スクラップの再加工などリサイクル系の事業を展開している企業をピックアップ。さらに、「鉄スクラップ」への物色の動きが見られた際、派生して思惑的に資金が向かうことが想定される「非鉄金属スクラップ」を扱う企業も取り上げました。
【東京製鐵(5423)】
電炉メーカー大手で、高炉メーカーとの競合製品にも生産を拡大
東京製鐵(5423)は電炉メーカーの大手。「電炉品種」とも呼ばれる小型形鋼や異形棒鋼などに留まらず、従来は電炉メーカーが製造してこなかったH形鋼や鋼矢板、角形鋼管、コイル類など高炉メーカーとの競合品種の生産を拡大しています。
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【大阪製鐵(5449)】
日本製鉄グループの中核電炉メーカー
大阪製鐵(5449)は、日本製鉄グループの中核電炉メーカーとして、棒鋼や山形鋼から軽軌条、エレベータガイドレールまで、さまざまな製品を製造。廃棄される自動車や建物などから発生する鉄スクラップを原料として活用することで、鉄資源の効率的なリサイクルプロセスを推進します。
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【共英製鋼(5440)】
鉄筋のシェアでは国内トップの電炉メーカー
共英製鋼(5440)は、地域で発生した鉄スクラップを再生し、製品として販売する電炉メーカー。建築・土木工事における基礎的な資材である鉄筋コンクリート用の棒鋼(鉄筋)が主力製品で、鉄筋のシェアでは国内トップの座を堅持しています。
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【イボキン(5699)】
鉄スクラップを仕入れ、メーカー規格に順じた再生処理を行う
イボキン(5699)は、廃棄物リサイクルの専門企業です。鉄リサイクル事業においては、鉄スクラップを発生元から仕入れ、自社工場にて選別と加工を実施。鉄鋼原料としてメーカー規格に順じた再生処理(圧縮・切断・破砕・選別)を行い、付加価値を高めた状態で鉄鋼メーカーに出荷することで、100%リサイクルを達成しています。また、スクラップに付着した紙やプラスチックなどの不純物についても、自社の産業廃棄物処理工場と連携し、適正に処理しています。
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【エンビプロ・ホールディングス(5698)】
国境を超え、多国籍間でリサイクル材や再生原料を流通
エンビプロ・ホールディングス(5698)は、金属やプラスチックなどのリサイクル・リユースを中核に事業を展開しており、鉄スクラップの再資源化にも取り組んでいます。また、グローバル資源循環事業として、国境を超えた多国籍間でリサイクル材や再生原料の流通を実施。金属スクラップに留まらず、再生可能エネルギーの燃料となる椰子殻や木質ペレットなど多様な資源の国際流通を手掛けています。
⇒エンビプロ・ホールディングス(5698)の最新の株価はこちら!
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【リバーホールディングス(5690)】
鉄スクラップをアジアを中心とした各国に輸出
リバーホールディングス(5690)は、廃棄物処理や自動車リサイクル、家電リサイクル、金属リサイクルなどを手掛けており、なかでも金属リサイクルを主力事業としています。鉄スクラップについては、製鋼原料として、国内メーカーのみならずアジアを中心とした各国に輸出しています。
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【黒谷(3168)】
銅を中心とした非鉄金属スクラップの加工・販売を手掛ける
黒谷(3168)は、銅を中心とした非鉄金属を扱う企業で、地金(インゴット)の製造・販売やスクラップの加工・販売を手掛けています。例えば、銅スクラップは、選別・プレス処理した後に自社のインゴット製造の原料として使用するほか、銅板や銅管などの伸銅メーカーや銅製錬メーカーにも販売します。なお、黒谷は「鉄スクラップ」や「電炉」の関連銘柄ではなく、派生テーマの「非鉄金属スクラップ」の関連銘柄となります。
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【フルヤ金属(7826)】
「PGM」など、希少貴金属の産業用の加工を手掛ける
フルヤ金属(7826)は、希少貴金属の産業用の加工を行う企業で、こちらも「非鉄金属スクラップ」の関連銘柄です。技術的にリサイクルが困難なイリジウムやルテニウムなどプラチナグループメタル(PGM)の回収に取り組むことで、独自の回収技術を確立。高品位素材から低品位素材まで、PGMの効率的な回収と純度の高い精製を可能としています。
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以上、今回は「電炉」や「鉄スクラップ」「非鉄金属スクラップ」の関連銘柄を発掘しました。
なお、鉄スクラップ価格の高騰状況については、鉄鋼のコスト上昇に繋がる面もあるため、注視しておく必要があります。環境意識が急速に強まりつつある中で、長期的に見て「脱炭素」につながる鉄スクラップの活用がこれまで以上に広がっていく可能性は高いでしょう。
その他、鉄鋼製造におけるコークスの還元剤としての役割を水素に代替させる技術の研究も進んでおり、こちらでも新たな技術革新が期待できそうです。投資家として、鉄鋼業界全体の動向に関して期待感を持って見守っていく必要がありそうです。
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