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人口爆発や紛争などによる水産物の供給不足を補うため、
世界的に「獲る漁業」から「育てる漁業」への転換が進む
世界では、人口爆発や紛争などによって食料や資源の争奪戦が起こっており、近年では水産物の価格も高騰しています。この水産物への旺盛な需要を支えるため、水産養殖の重要性が高まっています。国連食糧農業機関のデータを見ると、世界の漁獲量のうち養殖が占める割合は2021年時点で57.7%に達しており、「獲る漁業」から「育てる漁業」への転換が進んでいることがわかります。
一方、日本については、世界平均と比べて水産養殖が遅れているのが現状です。農林水産省が2023年5月に公表した「海面漁業生産統計調査」によると、国内の養殖の割合は2021年が24.1%、2022年が23.5%、2023年が24.6%と20%台半ばにとどまっています。この養殖率の引き上げは、今後の日本の課題と言えるでしょう。
海に生け簀や筏などをつくり、そこで魚や貝などを育てる「海面養殖」は、年間を通して海水温が低いことや天候や波が穏やかなことなど、条件が厳しいために適地が限られます。また国内では、漁業権の確保にあたって地元漁協との交渉を必要とすることもあり、養殖率を引き上げたくても新たな養殖エリアの確保が難しいのが現状です。さらに近年は、海水温の上昇によって水産物が大量に死亡するなど、「海面養殖」の限界が見えてきたとも言われています。
そこで、水産業における持続可能性と効率性を高めるための有力な手段として注目されているのが「陸上養殖」です。
完全に環境がコントロールされた水槽で育てる「陸上養殖」は、
環境負荷が少なく、天候に左右されず安定的に魚介類の生産が可能
「陸上養殖」とは、陸上に人工的につくった環境下で魚介類を育てる養殖方法で、環境への負担が少ない新しい養殖の形として期待されています。完全に環境がコントロールされた大型水槽で魚介類を育成するため、自然環境への影響を最小限に抑えながら、天候や水温などに左右されることなく安定的に魚介類を生産することが可能です。
また、陸上養殖は需要の大きい都市部の近郊でも行うことが可能なため、輸送コストを抑えながら、新鮮な魚介類をより迅速に市場に供給することができるのもメリットです。
このように陸上養殖は環境保護と効率的な生産の両方を実現する新しい養殖方法として期待されることから、新規参入が相次いでいます。水産庁は実態を把握するため、2023年4月に陸上養殖事業者の届け出制度を導入しましたが、2024年1月1日時点で国内の陸上養殖施設の届け出は662件あるとのことです。
一方で、陸上養殖は、設備投資や電気などのエネルギーコストといった費用が総コストの約7割を占めており、海面養殖に比べてコストが割高になることが普及に向けた課題となっています。
設備の小型化によって初期投資を抑える取り組みも進んでいますが、このコスト問題を抜本的に解決するために期待されるのがICT(情報通信技術)やIoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)などのIT技術です。例えば、遠隔カメラや自動給餌機の活用が進めば、必要なスタッフの人数を減らすことが可能となり、コスト削減はもちろんのこと、日本の水産業の大きな課題となっている人手不足への対策にもつながります。
またIT技術は、人間の経験や勘だけに頼らない、分析や科学にもとづく養殖を可能とします。例えば、AIを活用して魚介類の成長パターンや健康状態を予測し、計画的かつ安定的に生産を行うことで、失敗が少なく、より効率的で高い収益性を確保することが可能となります。
こうしたIT技術を活用することで、コストダウンを実現しながら高品質な魚介類を育て上げる養殖は「スマート養殖」と呼ばれます。
そこで今回は「スマート陸上養殖」関連銘柄に注目しました。銘柄としては、陸上養殖を手掛けている企業のほか、「スマート陸上養殖」の関連システムを手掛けている企業を中心にピックアップ。そのなかから、株価やチャート形状などのテクニカル面を考慮して選定しました。
【NTT(9432)】
リージョナルフィッシュと共同でNTTグリーン&フードを設立
NTT(9432)は、京都大学発ベンチャーで陸上養殖を手掛けるリージョナルフィッシュと共同で、合弁会社NTTグリーン&フードを設立して2023年7月より事業を開始。魚介類の品種改良や生産・販売のほか、再生可能エネルギーや水質浄化プラントなどを含むサステナブル陸上養殖システムの研究・開発を行っています。株価は、1月23日につけた高値192.9円をピークに調整が続いており、直近では52週移動平均線を下回ってきました。ただし、中長期的に上向きで推移する52週移動平均線が下値支持線として機能するかどうかを見極めたいところです。
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【富士通(6702)】
養殖管理システム「Fishtech養殖管理」を手掛ける
富士通(6702)は、陸上養殖業の大規模化と高度化を見据えた養殖管理システム「Fishtech養殖管理」を開発。成育・生簀環境のモニタリングやカメラによる遠隔監視、マルチデバイスによる作業記録・管理、さらには育成した生体の高精度トレーサビリティ管理などを実現しています。株価は、足元で高値圏でのもみ合いが続いていますが、上向きで推移する13週移動平均線を下値支持線とした上昇トレンドが続いているため、押し目を狙いたいところです。
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【古野電気(6814)】
養殖業者向けアプリ「Aqua Scope」などを提供
古野電気(6814)は、魚群探知機など船舶用電子機器のメーカーです。養殖事業としては、生簀内の養成魚の成長状況を把握する「魚体重推定カメラ」や、養殖管理に必要なデータを統合して表示できる養殖業者向けアプリ「Aqua Scope」を提供しています。株価は、4月15日に発表した2025年2月期の計画で2ケタ減益が予想されていることが嫌気され、ストップ安を交えて急落。しかし、前期の営業利益が前期比4.3倍に膨れた反動があることに加え、一気に200日移動平均線まで下げたことから、リバウンド狙いのチャンスと言えるでしょう。
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【コーナン商事(7516)】
ホームセンターの一角で「バナメイエビ」の陸上養殖を開始
コーナン商事(7516)はホームセンター大手です。2023年8月に子会社のコーナンビジネスイノベーション(KBI)が、新規事業として、完全閉鎖型の循環式陸上養殖を行うアクアステージの協力のもと、ホームセンターの駐車場の一画を利用した「バナメイエビ」の陸上養殖事業を開始しました。株価は、4月11日に一時4690円まで上昇した後はやや調整を見せていますが、中長期的には上向きで推移する13週移動平均線を下値支持線とした上昇トレンドが継続しているため、押し目狙いのスタンスとなります。
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【マルハニチロ(1333)】
三菱商事とサーモンの陸上養殖事業会社を設立
マルハニチロ(1333)は、2022年10月に三菱商事(8058)とサーモンの陸上養殖事業会社アトランドを設立。富山県入善町に原魚ベースで2500トン規模の陸上養殖施設を建設し、2025年度の稼働開始、2027年度の初出荷を目指しています。株価は、上向きで推移する13週移動平均線に沿った上昇トレンドが継続。3月半ばには13週移動平均線を下回る場面も見られましたが、長い下ヒゲを残す形で切り返しました。直近で13週移動平均線まで下がっているので、ここからのリバウンドを期待したいところです。
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【三井物産(8031)】
子会社のFRDジャパンがサーモントラウトの陸上養殖事業を行う
三井物産(8031)は子会社のFRDジャパンが、独自に開発した閉鎖循環式の陸上養殖システムにより、サーモントラウト(淡水魚であるニジマスを、海水で養殖したもの)を養殖・販売しています。なお、FRDジャパンには、三井物産のほかにエア・ウォーター(4088)、STIフードホールディングス(2932)、積水化学工業(4204)、長谷工コーポレーション(1808)なども出資しています。株価は4月9日に一時7535円まで買われ、その後はやや調整を見せていますが、上向きで推移する13週移動平均線を下値支持線とした上昇トレンドが継続しており、押し目狙いのスタンスで要注目です。
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以上、今回は「スマート陸上養殖」関連銘柄を発掘しました。
かつて水産王国であった日本ですが、漁業就業者が1961年の69.9万人から2019年には14.4万人と、約5分の1にまで減少。水産生産量も1987年まで世界1位だったのが、2022年には12位まで下がっており、かつての輝きを失いつつあります。また、気候変動による海水温上昇や乱獲などにより、これまで近海で取れていた魚が取れなくなるなど、地元の水産・加工業者にも大きな影響を与え始めています。
「スマート陸上養殖」は、こうしたさまざまな課題を解決する手段としても期待されているため、投資テーマとしては非常に魅力的と言えるので、個人投資家としては要チェックです。
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