教科書の中にこそ「伝え方」の技術を盛り込みたい

佐々木さん。「伝え方」の技術で、教科書をリライトしてください。<br />【佐々木圭一×坪田信貴】(後編)佐々木圭一(ささき・けいいち)
コピーライター/作詞家/上智大学非常勤講師
新入社員時代、もともと伝えることが得意でなかったにもかかわらず、コピーライターとして配属され苦しむ。連日、書いても書いても全てボツ。当時つけられたあだ名は「最もエコでないコピーライター」。ストレスにより1日3個プリンを食べる日々をすごし、激太りする。それでもプリンをやめられなかったのは、世の中で唯一、じぶんに甘かったのはプリンだったから。あるとき、伝え方には技術があることを発見。そこから伝え方だけでなく、人生ががらりと変わる。本書はその体験と、発見した技術を赤裸裸に綴ったもの。本業の広告制作では、カンヌ国際広告祭でゴールド賞を含む3年連続受賞、など国内外55のアワードに入選入賞。企業講演、学校のボランティア講演、あわせて年間70回以上。郷ひろみ・Chemistryなどの作詞家として、アルバム・オリコン1位を2度獲得。「世界一受けたい授業」「助けて!きわめびと」などテレビ出演多数。株式会社ウゴカス代表取締役。伝えベタだった自分を変えた「伝え方の技術」をシェアすることで、「日本人のコミュニケーション能力のベースアップ」を志す。
佐々木圭一公式サイト:www.ugokasu.co.jp
Twitter:@keiichisasaki

坪田 今の話を聞いて思い出したことがあります。僕の尊敬する人に山本真由美さんという素晴らしい美容師さんがいらっしゃるのですが、彼女が「外見というのは一番表に出てきている内面だ」というようなことをおっしゃっていて、ハッとさせられました。よく「外見だけきれいにしてもダメ」みたいなことを言うけれど、外見をきれいにしていけば内面もきれいになっていく…とおっしゃっていて面白いなと思ったんです。まさに佐々木さんがおっしゃっていることも同じで、伝え方を変えることによって人間の内面もどんどん変わっていく、と。「言葉の超一流」である佐々木さんと、「カットの超一流」である山本さんが同じことをおっしゃっていて、さすがだと思いました。

佐々木 嬉しいですね。

坪田 先ほどの社長さんの例って、たくさんあると思うんです。自分の経験上うまく行ったことをそのままストレートに伝えてしまって、それがパワハラになってしまう。特に中小企業の社長は、バブル時代もバブル崩壊も経験し、さまざまな荒波を乗り越えてきているので、「お前も俺と同じようにやれ」と言いがちですけれど、当時と今とでは時代が全く違う。こういうひずみを減らすためにも、伝え方を学ぶことを必須にしたいんですよ。どうすれば伝え方を教科書にできるんですかね??今度文科省の人に聞いてみようかな。

佐々木 どれだけ引き出しを持っているんですか(笑)。実は一度、ある出版社に声を掛けられて調べてみたことがあるんです。教科書って1年の中でこれをやらなければならないというルールがあるじゃないですか。それを3年なら3年分、すべてクリアした内容のものを作らなければならない。これはうちの会社だけで作るのは絶対無理だと思いました。もし関わるとするならば、教科書作成チームのアドバイザーとしてならばリアリティーはあると思うんです。

坪田 今思いついたのですが、伝え方という教科書ではなく、例えば国語や歴史、理科などの教科書に盛り込む方法でもいいんじゃないでしょうか?

佐々木 なるほど。理科とか、難しそうな教科を伝え方で…。

坪田 そうそう。伝え方をこう変えたら、こんなに楽しく覚えられるというような。学んでいるのは理科だし、数学だし、国語なんだけど、その教科を通じて伝え方を習得できるという。

佐々木 面白い!同じ内容なのにこんなに面白くなりますよ、すっと頭に入りますよ、という教科書を作るということですね。

坪田 特に英語なんて、伝え方をベースとした例文なんていくらでも作れそうじゃないですか?伝え方の技法を使っていない英文と、使っている英文を並べて、日本語ならばどちらのほうが伝わる?というようなやり方はどうでしょうか?

佐々木 いいですね。偉人の名言でもいいかもしれない。

坪田 なるほど!リンカーンやケネディの演説を取り上げて、「普通の人だったらこう言いがちなところ、リンカーンはこういう伝え方の技術を使って大衆に伝えている」とかね。…今の教科書って、学習指導要領に沿って書かれているから、正直面白くないのは当たり前。本来は歴史も英語も国語も面白いものなのに、伝え方のせいで「現代アート」みたいにシュールな状態になっている。

佐々木 現代アート(笑)。

坪田 だって、皆が読むもので、国もすごくお金をかけているのに、全員が違う方向を向いているのってシュールじゃないですか?先生は本気で教科書通りに教えようとは思っていないし、成績のいい子は「こんなの知っているよ」と授業中に別の教科の勉強をしているし、成績が悪い子は「つまらないなあ。今日の部活では何をしようかな」なんて別のことを考えている。授業中は本来、全員が同じ方向を向いていないといけないのに、全員が違う方向を向いている。この現状がシュールだし、何よりもったいない。

佐々木 僕、学生時代は国語が苦手だったんです。「コピーライターなんだから、国語は得意だったんでしょ」とよく言われますが、2を取ったこともあるんです。例えば、長文の読解問題で、この「それ」という言葉はどれを指すのか?というものがありますが、いったいどれを指すのか悩む問題ばかりで。今思うと、「例文がすごく悪文なんじゃないか」って思うんです(笑)。 「それ」が指すものがすぐにわからないような文章は、そもそも文章としてダメだろうと。

坪田 本当だ!入試問題で正答率2割なんていう長文読解問題がありますが、確かにそれって悪文じゃん(笑)。

佐々木 文章は「伝承」。何かを相手に残そうとする手段であるはずなのに、わかりにくかったら伝承できるはずがないですよね。

坪田 もし興味がありましたら、教科書をいくつかお送りするので…

佐々木 それに「伝え方」の要素をどう盛り込むか考えて、リライトする?

坪田 そうそう(笑)。章立てとか中身は決まっているので、後は伝え方を変えるだけ。佐々木さんの出番です(笑)。

佐々木 面白いですね。それやってみましょう。それこそ今のやり取りを記録しておかないと…メモメモ(笑)。