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米国株は順調にリバウンドし、年内には過去最高値を更新する可能性も!? ただし実体経済は悪く、一時的な下落局面も予想されるので、今は「押し目」を待とう

2020年4月13日公開(2022年9月22日更新)
広瀬 隆雄
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先週の米国市場は、ほぼ「半値戻し」を達成したことで、
米国株に反発力があることを示唆

 先週の米国株式市場は急伸しました。S&P500指数は、週間ベースで+13%上昇し、3月23日の安値からは+25%となっています。ダウ工業株価平均指数(NYダウ)は+13%上昇し、安値からは+27.8%となっています。ナスダック総合指数は+10.6%上昇し、安値からの上昇幅は+23%でした。

■S&P500指数チャート/日足・3カ月
S&P500指数チャート/日足・3カ月S&P500指数チャート/日足・3カ月(出典:SBI証券公式サイト)
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 この上昇によりS&P500指数は、2789.82で先週の立ち合いを終えています。これは、2月19日の高値(3393.52)から3月23日の安値(2191.86)の下落幅1201.66の、ちょうど「半値(600.83)戻し」の水準である2792.69に肉薄しています。

「半値戻し」をほぼ達成したということは、米国株には反発力があることを示唆しており、いずれニューヨーク市場は過去最高値を更新する、それも年内に実現する可能性が未だ十分残っていることを意味します

好調な株価に比べて米国の実体経済はひどい状態。
全労働人口の10%以上が失業保険を申請!

 その反面、米国株のこれまでの上げピッチは「少し性急すぎる」観があります。それというのも、経済指標のデータに米国経済の悪さがハッキリと反映されはじめているからです。

 下は、新規失業保険申請件数です。

 過去3週間に発表された新規失業保険申請件数を単純に足すと1678万人となり、米国の労働人口全体の10%を超えます。つまり、失業率が10%以上増加してしまっていると見ることができます。これは、アメリカ経済が深刻な状況に置かれていることを意味します。

FRBは、先日発表したプログラムを強化・拡大するため、
2.3兆ドルのさらなる追加支援策を発表!

 先週、ひどい新規失業保険申請件数の発表と同じタイミングで、連邦準備制度理事会(FRB)が家計、企業、州政府、地方政府を支援する2.3兆ドルの追加景気支援策を発表しました。これは、先に発表されたFRBの一連のプログラムを強化、拡大する目的で行われるものであり、相場の暴落を食い止める意図があることは明らかでした。

 まず、賃金保護プログラム流動性ファシリティ(PPPLF)を通じて、すでに発表されている銀行のPPP(Paycheck Protection Program)融資を額面にて買い上げることが発表されました。

 次に、地方商店街拡大貸付ファシリティ(MSELF)を通じて、6千億ドルのローンを買い上げます。買い取りの対象になるのは4年物ターム・ローンで、初年度は元本の償却と利払いが免除となります。

 地方商店街新規貸付ファシリティ(MSNLF)は、従業員1万人以下、売上高25億ドル以下の企業に対して新規にローンを貸し出すプログラムです。

 さらに、すでに発表されている新発社債購入のためのプライマリー・マーケット・コーポレート・クレジット・ファシリティ(PMCCF)、既発社債購入のためのセカンダリー・マーケット・コーポレート・クレジット・ファシリティ(SMCCF)、ならびに自動車ローンやスチューデントローンなどの資産担保証券(ABS)を購入するターム・アセット・バックト・セキュリティーズ・ローン・ファシリティ(TALF)の規模と適用範囲を最大8500億ドルまで拡大することが発表されました。

 そして、ミュニシパル・リクイディティー・ファシリティ(MLF)を新設し、州政府、市、郡などの地方政府が発行する債券を購入することを通じて、5千億ドルの流動性を提供することが発表されました。

FRBは、社債の購入という「禁じ手」に踏み切ると同時に、
パウエル議長のスピーチで批判をねじ伏せる

 今回のFRBの支援策が画期的だった点は、FRBが社債の購入という「禁じ手」に踏み切った点です。これまでFRBは、量的緩和政策(QE)の買い入れ対象を、国債や住宅抵当証券など不公平が出にくい投資対象に限定してきました。

 個別の企業が出す社債をFRBが各個に買うということは、FRBが「この企業は救う、この企業は見殺しにする」という判断を下すことに他ならず、「えこひいきじゃないのか?」という批判を浴びやすいのです

 見方によっては、FRBが「世界最大のPE(プライベート・エクイティー)ファンドになった」と言えるわけで、利益相反の可能性は極めて大きいです。

 FRBのジェローム・パウエル議長自身、もともとカーライル・グループというPEファンドで工業セクター投資部門を立ち上げた人であり、一連の投資が大成功を収めたことで億万長者になった人です。

 そのような批判が出てくる可能性を予期する形で、パウエル議長は4月9日、シンクタンクのブルッキングス研究所が主宰するウェブ・セミナーでスピーチし、今回の「禁じ手」を繰り出した背景について「なにびとも自分に降りかかって来る試練を選ぶことは出来ない。運命、そして歴史が、試練を我々のところへもたらすのだ。我々のやるべきことはただ一つ。その挑戦に立ち向かうことだけである」と述べ、先回りして批判を封じ込めました。

 ちなみにこのメッセージは、カトリックのキリスト教の宗派・イエズス会の典型的な世界観です。イエズス会は、ルターの宗教改革でカトリックが批判に晒された際、カトリック側から登場した進歩・改革派です。その関係で、その価値観は剛毅、質素、教育を重視しています。パウエル議長は、イエズス会系の高校・大学で学んだ関係で、そういう考え方に慣れ親しんでいるというわけです。

 つまり、一つ間違えば批判にさらされかねない「禁じ手」の政策を、ほとんど宗教の域に達するほど崇高な行為として置き換えることで批判をねじ伏せたのです

【今週のまとめ】
FRBの「美技」により米国株はほぼ「半値戻し」を達成したが、
このまま上昇が続く可能性は低いので、深追いは禁物!

 3週間連続の“ひどい新規失業保険申請件数”という危機は、FRBの2.3兆ドルの追加支援の発表と、パウエル議長のブルッキングス研究所でのスピーチという「美技」により回避されました。このため先週のニューヨーク市場はほぼ「半値戻し」を達成しました。

 これは、今年後半の米国株の展望という点からは心強いことに違いないのですが、足下の実体経済はどんどん悪くなっています。したがって、先週のような株価上昇が今後も一本調子で続くとは考えないほうが良いかもしれません

 もう少し安いところで買うチャンスが近くあると思うので、ここは深追いせず、押し目を待つ「丁寧な相場」を張りたいと思います。

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