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米国で最も感染被害の大きかったニューヨーク州でも、
徐々に外出禁止令の解除が始まる
米国では、先週あたりから多くの州で外出禁止令が解除され始めています。注目のニューヨーク州でも5月15日から、感染抑制が上手く行っている区から順番に外出禁止令の解除が始まりました。長い間、自宅に閉じこもっていた市民は久しぶりに自由に外出できるようになり、お店もだんだん開き始めています。
このため、目先は激しい落ち込みを見せた米国経済がリバウンドする可能性があります。
しかし、その場合でも、新型コロナウイルスに対する不安が払拭されたわけではありません。エレベーターのボタンを押す、地下鉄のつり革をつかむ、お店のドアを開ける……そういうこれまで我々が無意識にやっていたことが、不快に感じられます。
またレストランは、ソーシャル・ディスタンシングの観点からすぐに100%のキャパシティで営業することが許されず、最初は30%くらいから徐々に戻していくことを強いられます。
夏の間はウイルスの活動が抑えられるので新規感染者数はあまり増えないと思いますが、秋になると再び新型コロナウイルスが猛威を振るうリスクも指摘されています。そのときは、再び外出禁止令が発令されるかもしれません。
つまり、米国の景気回復は「V字型」ではなく、ノコギリの歯のような「ギザギザ型」になってしまうかも知れないのです。それを防ぎ、経済が昔の活気を完全に取り戻すためには、新型コロナウイルスのワクチンの登場を待たねばなりません。
100を超えるワクチン開発プロジェクトの中から、
成果が期待できる5つをピックアップ
現在、世界中で100以上の新型コロナウイルス向けワクチン開発プロジェクトが動いています。それらの中にはしっかりとしたプロジェクトもありますが、ワクチン開発プロジェクトとは名ばかりのいい加減なプロジェクトもあります。そこで、私が「このプロジェクトはしっかりしている」と考える会社を選び出したのが下の表です。
■新型コロナウイルス向けワクチンの主な開発プロジェクト | ||||
会社名 | 手法 | 現在の状況 | ワープ・スピード作戦への採用 | 作り置き目標 |
モデルナ(MRNA) | mRNA | P1継続中、P2開始 | 濃厚 | 10億人分、EUAの可能性あり |
バイオンテック(BNTX)/ファイザー(PFE) | mRNA | P1(4ワクチン候補を並列して臨床試験中) | 濃厚 | 2021年までに数億人分、EUAの可能性あり |
サノフィ(SNY)/グラクソ・スミスクライン(GSK) | 抗原性補強材遺伝子組み換え型 | 下半期にP1予定 | なし | 2021年6月までに6億人分 |
ノヴァヴァックス(NVAX) | 抗原性補強材遺伝子組み換えナノ粒子 | P1開始、CEPIから寄付あり | 可能性あり | EUAの可能性あり |
ジョンソン&ジョンソン(JNJ) | 非複製ウイルス運び屋(Vector)型 | 9月にP1予定 | 可能性あり | 2021年にEUAの可能性あり |
※「P1」「P2」は、それぞれ第1相臨床試験、第2相臨床試験のこと。「ワープ・スピード作戦(Operation Warp Speed)」は、トランプ政権が打ち出したワクチンの早期開発計画で、これに採用される米国政府によるワクチンの買い取りが約束される。 |
各社のプロジェクトについて、ひとつずつ解説していきましょう。
【モデルナ】
5月から、早くも「第2相臨床試験」を開始!
スイスのバイオ薬生産下請け会社と生産委託契約を締結済み
モデルナ(ティッカーシンボル:MRNA)は2018年に新規株式公開(IPO)したばかりの若い会社ですが、非常に高い研究開発力を誇っています。1月に中国の武漢の研究者が新型コロナウイルスのゲノム(遺伝子情報)をオープンソース・データベースにアップし、世界の研究者がそれにアクセス可能になったとき、モデルナは短期間でワクチンの試作品を完成させ、一番乗りでアメリカ国立衛生研究所(NIH)に納入したことで、世界中をアッと言わせました。
モデルナのワクチンは、すでに第1相臨床試験(P1)を終えており、5月から第2相臨床試験(P2)が開始されたところです。この臨床試験はNIHがじきじきに行っています。
なお、モデルナの取締役で新薬開発委員会の委員長を務めていたモンセフ・スラウィ博士は、トランプ政権の「ワープ・スピード作戦(Operation Warp Speed)」の総指揮者に起用されたため、利益相反を防ぐ見地から先週モデルナの取締役を辞しています。
ワープ・スピード作戦では、有望と思われるワクチンに対して承認を待たずに米国政府が大量に買い取ることを約束することで、すぐにワクチンの量産、作り置きができるようにしています。なぜなら、ワクチンは発注から納品までにかかるリードタイムが長く、承認が出てから量産に入ったのでは秋に予想される新型コロナウイルスの再流行に間に合わないからです。
モデルナは、マサチューセッツ州に自社のバイオ工場を持っており、臨床試験に使われるワクチンの量産をすでに始めています。さらに、将来モデルナのワクチンが承認され、大量生産が必要となった場合に備えて、スイスのバイオ薬生産下請け会社・ロンザとワクチン生産委託契約を交わしています。
モデルナは、今年の年末までに10億人分のワクチンを作り置きするという極めてアグレッシブな目標を掲げています。
これらの諸条件から考えて、モデルナがトランプ政権のワープ・スピード作戦のパートナー企業に選ばれる可能性は極めて濃厚だと言えるでしょう。
モデルナがワープ・スピード作戦のパートナー企業になった場合、米政府から大量のワクチンが発注されます。しかし、それはモデルナのワクチンが承認されることを保証しません。もしモデルナのワクチンが効かなければ、作り置きしたワクチンはすべて廃棄処分になります。
ただ、その場合でも緊急利用承認(EUA)という形で、新型コロナウイルス患者へのケアの最前線で戦っている医者や看護婦に対して、特別措置として利用が認められる可能性があります。
なお、モデルナの株価は、過去3カ月で252%も上昇しました。
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【バイオンテック/ファイザー】
「高齢者向け」など、患者の状況に合わせた
4種類のmRNAワクチンを並行して開発
次にワクチン開発レースで先頭近くを走っているのは、ドイツのバイオンテック(ティッカーシンボル:BNTX)と米国のファイザー(ティッカーシンボル:PFE)の連合です。
バイオンテックは、長く「mRNA」に関する技術を温めて来た会社で、その研究開発力はモデルナ同様に強力です。バイオンテックは、マインツ大学の教授を務めていた“おしどり夫婦”が始めた会社で、ドイツのバイオ産業の中核企業と言えます。
mRNA技術によるワクチン開発は、ソフトウェアによりタンパク質をデザインする感覚に近いです。そのメリットは、開発に要する時間が比較的短い点にあります。
新型コロナウイルスは、しばしば変異(mutation)することが予想されており、折角、ワクチンを完成させても「これは武漢型」、「これは欧州型」という風にバージョンの違う新型コロナウイルスが次々に登場すると、ワクチンの開発が追いつかないリスクがあります。その際、mRNA技術なら、ゲノムのプログラムをちょっと手直しすることで、すぐに変異に対応することができます。
さらに、mRNAベースのワクチンの量産は伝統的なワクチンの製造手法より簡単であり、そのこともワクチンの大量供給を早めると期待されます。
一方、デメリットとしては、mRNAベースのワクチンは過去に一度も成功した例がないことが挙げられます。つまり、バイオンテックのワクチンも、同じくmRNAベースであるモデルナのワクチンも「空振り」に終わるリスクが高いのです。
この点を考慮し、バイオンテックは、「高齢者向け」など患者の状況に合わせた全4種類のmRNAワクチン候補を並列で、同時に臨床試験を進めています。このやり方は、バイオンテックのワクチンの成功確率を高めると考える関係者もいます。
一方、ファイザーは、ワクチンの製造を担当するパートナー企業です。実はワクチンを量産するキャパシティを持っている企業は世界でも5社程度しかなく、ファイザーはその内の1社です。世界屈指の製薬会社であるファイザーが、数ある候補の中からバイオンテックを選んだということは、バイオンテックの研究開発力が高く評価されていると解釈していいでしょう。
なお、バイオンテックの株価は過去3カ月に53%上昇しましたが、これは他社に比べれば物足りない数字です。バイオンテックの株価が出遅れている理由は、米国市場で売買されているのが同社のドイツ株ADR(米国預託証券)であること、さらに、経営者の英語のプレゼンが下手なためにアメリカの投資家が同社の真価を理解してないこと、などが挙げられます。
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【サノフィ/グラクソ・スミスクライン】
パスツール研究所にルーツを持つ
由緒正しきワクチン製造販売会社が参加
サノフィ(ティッカーシンボル:SNY)はフランスの大手製薬会社で、子会社にサノフィ・パスツールというヒト用ワクチンの製造販売会社があります。社名にある「パスツール」は、「近代細菌学の開祖」と言われるフランスの細菌学者ルイ・パスツールの名前を冠した由緒正しいパスツール研究所を指します。
サノフィ・パスツールに蓄積された過去の研究実績は、リヨンのメリュー研究所やトロントのコンノート研究所などの由緒ある研究機関にルーツを求めることができ、まさにワクチン開発の大御所と言えます。
そんなサノフィが、英国の大手製薬会社・グラクソ・スミスクライン(ティッカーシンボル:GSK)と組んで開発している新型コロナウイルス向けワクチンは、「抗原性補強材遺伝子組み換え型」と呼ばれる伝統的な手法で作られます。
ワクチン開発では、「過去に成功した実績のある手法や量産技術がものをいう」という考え方があり、その点でサノフィ/グラクソ連合は無視できない存在です。
サノフィは大手製薬会社であり、新型コロナウイルスの開発以外にもたくさんのビジネスに手を染めているため、この材料だけで株価が動いているわけではありません。そのため、サノフィの株価の過去3カ月のパフォーマンスは-6.8%と下落しています。
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【ノヴァヴァックス】
ビル&メリンダ・ゲイツ基金基金も出資するCEPIが、
高い評価を下して3.8億円の寄付を行う
ノヴァヴァックス(ティッカーシンボル:NVAX)は、メリーランド州に本社を置く小規模なワクチン開発企業です。
ノヴァヴァックスの実績は、今回紹介している他の企業に比べると劣ります。しかし、ノヴァヴァックスが開発している新型コロナウイルス向けワクチンは、ビル&メリンダ・ゲイツ基金や英国のウエルカム基金などがスポンサーとなっている感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)から高い評価を得ており、第2相臨床試験を進めるための費用として3.8億ドルの寄付を受けました。これは、CEPIがこれまでに拠出したどの支援金より大きい金額です。
ノヴァヴァックスの新型コロナウイルス向けワクチンは、「抗原性補強材遺伝子組み換えナノ粒子」という伝統的な手法を使っています。トランプ政権のワース・スピード作戦は、リスク分散のために新しい手法であるmRNA技術と伝統的手法の両方のワクチン開発を支援すると予想されるため、ノヴァヴァックスが抜擢される可能性は高いと考えます。
ノヴァヴァックスの過去3カ月の株価パフォーマンスは、+489%でした。
なお、ノヴァヴァックスは、自社でワクチンを製造する工場は持っていません。したがって実際のワクチンの製造にあたっては、エマージェント・バイオソリューションズ(ティッカーシンボル:EBS)を起用する契約をすでに締結しています。過去3カ月のエマージェントの株価パフォーマンスは、+29%でした。
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【ジョンソン&ジョンソン】
世界最大級の製薬会社は、他社と違うアプローチ方法で
新型コロナウイルスのワクチン開発を進行中!
ジョンソン&ジョンソン(ティッカーシンボル:JNJ)は、世界最大級の製薬会社/医療機器メーカーです。ジョンソン&ジョンソンでは、独自のチームが新型コロナウイルス向けワクチンの開発にあたっています。
ジョンソン&ジョンソンが使用する手法は「非複製ウイルス運び屋(Vector)型」と呼ばれるものであり、上記のどの企業ともアプローチ方法が違います。ワープ・スピード計画の立場からすれば、このような毛色の違うアプローチ方法はリスク分散の観点から大歓迎です。
ジョンソン&ジョンソンのワクチンが臨床試験に入るのは9月と見られており、有望なワクチン候補の中では最も遅れています。しかし、ジョンソン&ジョンソンがあえて臨床試験を急がない理由は、豊富な経験から、急いで中途半端な仕事をするよりじっくり煮詰めた方が良いという考えを持っているからです。
ジョンソン&ジョンソンの過去3カ月の株価パフォーマンスは、+1%でした。
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【今週のまとめ】
ワクチン開発プロジェクトという「博打」に
勝てる可能性が高い企業に投資しよう!
現在、世界では100以上の新型コロナウイルス向けワクチン開発プロジェクトが動いています。それらのうち成功するのは、おそらく1〜3つ前後でしょう。つまりワクチン開発は「博打」なのです。
今回は、それらの中で最も期待ができるプロジェクトを紹介しました。特にバイオンテックは、高い研究開発力を持ち、ファイザーという良いパートナーに恵まれていますが、株価的には出遅れています。この銘柄がリスク・リワード的には一番魅力的です。
【※米国株の「新型コロナ向けワクチン」関連銘柄の記事はこちら!】
⇒米国の新型コロナ関連株では“ワクチン製造下請け”の「エマージェント・バイオソリューションズ」に注目! ワクチン開発競争の勝者に関係なく売上増の可能性大
⇒新型コロナ治療薬が話題の「ギリアド・サイエンシズ」を解説! その他「モデルナ」「リジェネロン」など、経済復活のカギとなるバイオ関連のリーダー企業を狙え!
⇒米国株が二番底リスクを警戒する中、狙い目は「新型コロナ治療薬・ワクチン」の関連銘柄! 一方で米国市場全体の株価推移は、新型コロナの感染者数次第!
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